「傾聴の力 ― 自分と相手を受け入れるために」

人の話を「ただ聞く」ことと「心から聴く」ことは、似ているようで大きく違います。心理学者カール・ロジャーズ(傾聴の父)は、相手の感情に寄り添いながら耳を傾けることを「傾聴」と呼びました。傾聴は、相手の心を解きほぐし、自己理解や成長へとつながる大切な営みなのです。

ロジャーズの考え方について

ロジャーズによれば、クライエントは「自分の感情を受け止めてもらえている」と感じることで、少しずつ自分自身の声に耳を傾けるようになります。怒りや不安、勇気や希望――これまで抑え込んできた感情に気づき、受け入れることができるようになるのです。 その過程で、セラピストの「無条件の肯定的関心」に触れ、やがて自分自身にも同じ態度を向けられるようになります。つまり、ありのままの自分を受容し、自由に成長していく道が開かれていくのです。

クライエントは相手が自分の感情に受容的に傾聴していることに気付くにつれて、少しずつ自分自身に耳を傾けるようになっていく。彼は自分の中から伝えられるものを受け取り始める。例えば、自分が怒っていることに気付いたり、どのような時に自分が脅威を感じるのかを認めたり、どのような時に自分が勇気を感じるかを理解したり、というように。

自分のなかで進行しつつあるものに対して、開かれるようになるにつれて、彼はいつも否認を抑圧してきた感情に耳を傾けることができるようになる。とてもおそろしく、無秩序で、正常ではなく、恥ずかしいと思ってきたので、それまでは自分の中に存在するとは認められなかった感情に対して、耳を傾けるようになるのである。

自分を傾聴することを学習すると、彼は自分自身に対して、より受容的になることができる。自分が隠してきた恐ろしい部分をより多く表現するにつれて、彼はセラピストが自分や自分の感情に一貫した無条件の積極的関心を向けていることに気付くのである。彼は少しずつ、自分に対して同じような態度をとるようになっていく

つまり、ありのままの自分を受容するようになり、そして生成のプロセスの中で前進しようとするのである。

さらに、彼は、自分の中の感情をより正確に傾聴するようになり、自分に対して評価的でなくなり、より受容的になるにつれて、より自分自身と一致する方向へと向かうようになる。

自分が身に着けてきた仮面を脱ぎ捨て、防衛的な行動をやめ、そして、ほんとうのあるがままの姿に開かれることが出来るのを見出す。

こうした変化が生じるにつれて、つまり彼がより自分に気付くようになり、より自己受容的になり、防衛的でなくなり開かれていくにつれて、彼はついに人間生命体にとって自由な方向へと自由に変化し成長することができるようになっている自分を見出すのである。

引用文献 諸富祥彦 『カール・ロジャーズ カウンセリングの原点』


傾聴がもたらす変化について

傾聴を通して人は次のような変化を経験します。

  • 自分の感情に気づき、認められる
  • 防衛的な態度を手放し、心を開ける
  • ありのままの自分を受け入れられる
  • 自己理解が深まり、成長への力が湧いてくる

これは単なる「話を聞く」以上の働きであり、人間関係や自己実現に大きな影響を与えます。


傾聴する側の姿勢

では、傾聴する立場にある私たちはどんな姿勢を大切にすればよいのでしょうか。

  • 相手の言葉だけでなく、感情や背景まで理解しようとする
  • 評価や批判をせず、そのまま受け止める
  • 安心感を生み出し、相手が自由に内面を探求できる場をつくる

こうした態度は、相手を援助するだけでなく、自分自身の心を開く練習にもなります。

結び

傾聴は「相手を助ける技術」であると同時に、「自分を深く理解する道」でもあります。人の話を聴くことを通して、私たちは自分自身の心の声にも耳を傾けられるようになるのです。

今日も素敵なクライエントさんに出会えることに感謝しながら、傾聴の力を信じて歩んでいきたいと思います。

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